Shoji Hano

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Interview

2005 羽野昌二インタビュー

Art Blakey and the Jazz Messengers - Caravan
実家が九州の小倉にあって、2階を下宿として貸していたんだけれど、俺の部屋は2階にあった。中3の時、友達からドラムもらってきてウチで叩いていたら、 隣の部屋の人が、10年くらい見たことがなかったんだけれどその人が突然きて、「お前ドラムやるのか」と。それでジャズのアルバムを2枚取り出してきて、 1枚がAlt Blakeyの『Caravan』、もうひとつがMax Roach とBuddy Richのドラム合戦のアルバムで、「これ貸すから、聴いてごらん」って、その後で気に入ったほうを下さると言う事で。俺は『Caravan』を選んだ。 その理由は、Art Blakeyのドラムが「本能的に自分の体に入ってきた」からだ。音だけじゃなくてフレーズ作りから何から。その当時のバンドのメンバーが錚々たるメン バーだったっていうのもあるだろうけれど、その時俺も、そのアルバムを本能的に選んだよね。まだ若かったから何にも知らなかったからね。

Clifford Brown/Max Roach - Brown and Roach Incorporated
高校に入ってから、楽器だけじゃなくて野球をやったり、スポーツをやったりしてたんだけれど、そのころラジオでビ・バップの特集をやっていて、その時に Thelonious MonkとかClifford Brownとかが流れてた。そのMonkとBrownがキッカケでJazzばっかり聴き始めたのだ。

その頃にMax Roachの32小節のドラム・ソロとかをコピーしたりして。俺は一応一生懸命コピーしたつもりだったんだけれど、実際自分でやってみると、後で聴いてみ たら全然コピーになってなかった(笑)。コピーすることがどういうことであるのか、っていうのは後々の問題になってくる。はじめはサルマネから入って、そ の内自我に目覚めてどうするか、っていうのはあるけれど。Max Roach、Art Blakeyは高校時代からハタチくらいまでに大きく影響を受けたドラマーだ。

Thelonious Monk Trio - Thelonious Monk (Art Blakey, Max Roach: drums)
高校の時に初めてラジオで流れていたのを聴いて、すごく印象的だったんだよね。特に難しいことをやってるようには聞こえない。単発で、ドン、ドンドン、って。曲作りから、やりかたから全部シンプル。でも何十年とそれを聴いてきても飽きないんだよね。

例えばMax Roachのような音作りっていうのはフレーズを自分の中で作っているから、コピーしやすいんだけれど、モンクのような音作りはひとつひとつの音の出だし のタイミングだから、一瞬の音のずれ。それって一拍の何分の幾つかずれるとかそういうことじゃなくて、武道でよく使う「間」と言う事かどうかはわからない けれど、彼は多分それを本能的に嗅ぎ取って、自分のものにしたんだろうけれども。突然ピアノ弾くのをやめてパッと踊ったりしたり。すごい、っていう人もい ればヒドイ、っていう人もいたりして、一時期人前で演奏することから遠ざかったりもしたりして。でも最高に素晴らしい人だよね。

Roy Haynes Quartet - Out of the Afternoon
Roy Haynesはすばらしいドラマーなんだけれど、同じ時期にElvin Jonesがいたから、どうしても1番になれなかった。Elvinがコルトレーンとバンドを作っていて、ツアーをした時にElvinが体調を崩してしまっ て、急遽Roy Haynesが代わりにプレイした。その時に録音した『My Favorite Things』ってアルバムがあるんだけど、それまでは4ビートの流れっていうのは、シンバル・レガートのリズムにあわせたフレーズ作りだった。それを Royがスネアとバス・ドラムを使って、上下のコンビネイションを中心にした、3連符で音を作ったんだよね。スネアとバス・ドラとハイハットで。ハッキリ 言ってドラムの改革だよね。それまでの流れからすると。でもElvin Jonesがやっぱり一番だったんだよね。

Tommy Flanagan - Overseas
このアルバムのドラムはElvin Jonesで、ブラシだけで演奏してる。このブラシ・ワークはそれまでのブラシの使い方を完全に覆したといえる。俺もレコードにあわせてやってみたりね。 これほどのブラシ・ワークができるドラマーはあまりいない。Art Taylor、フィリー・ジョー・ジョーンズら50年代、60年代に重宝されたドラマーたちは上手いけれど。この中のElvinのブラシ・ワークは最高だ ね。

Eric Dolphy - Last Date
Eric Dolphyがなくなる直前にヨーロッパで録音したアルバム。ミュージシャンには黒人じゃなくてヨーロッパのミュージシャンを使っている。この時の演奏の コラボレーションが面白くて、特筆すべきはハン・ベニンクとメシャ・メンゲルベルクがそれまでの4ビートの概念を打ち壊している。ヨーロッパ人独特のリズ ムの取り方なんだよね。Eric Dolphy自体もその中でも流れるような演奏だしね。

Eric Dolphy - Out to Luch
77年か78年頃だったかな。東京に阿部薫って天才サックス奏者がいた。俺は京都に住んでたんだけれど、東京に出てくることがあったんで遊びに行ったんだ よね。お互いその当時はお金が無くて、俺が持っていたなけなしの1500円で飯を食おうってことになった。それで部屋に戻った時に、阿部さんが「好きなレ コードを1枚もっていっていいよ」と言ってくれて、それで選んだのがこのレコードだった。Eric Dolphyの転換期といえる時期のアルバムで好きなんだよね。

New York Art Quartet (Milford Graves: percussion)
いわゆるフリージャズの革命としてのアルバムだね。Milford Gravesが初来日したのが74、5年だったかな。このArt QuartetのMilfordのドラムはそれこそ「間」だよね。音数を減らしてスネアだけで。今までのジャズの流れを変えた。でもこの人はあんまり外に 出ていって演奏したがらないよね。

Luis Armstrong - Satch Plays Fats: A Tribute to the Immoral Fats Waller
このアルバムだけに限らず、ルイ・アームストロングが好きなんだよね。プレイに行き詰まって苦しんでるときがあって、そんなときにルイの曲のレコードにあ わせてドラム叩いたら、一緒にできたんだよ。できた瞬間っていうのは、いわゆるメトロノームとかであわせる、頭であわせるじゃないんだよ。多分気持ちが一 緒になるんだと思う。俺の中ではね。彼らに言わせたらクソだって言われるかもしれないけれど。こういう気持ちに入ればこういう流れ、音が出るのかって。 音って聴いてる音と、実際に自分が前に出している音が違うからね。

音って面白い。初めて自分がドラムやっているの録音して聴くと、違う奴がやっているように聞こえるんだよね。さっきのMax Roachのコピーの話じゃないけれど、自分では頭の中ではレコードの音があるんだけれど、録音してみると同じじゃない。でもそれがあるとき、自分がやろ うとしたことと、実際に出した音が同じになるんだよね。これは大切なことなんだけれど、イージーなようで難しい。なかなかできないんだよね。

Ornette Coleman - Body Meta
エレクトリックを使う奏法に変わっていった、一番の転換の時期だよね。もっとパーカッションチックでエレクトリックを使った感じで。75年くらいかな。マ イルスはもっと早かったけれど。そう考えたら75年以降、何が変わってきたのか? 例えば40年代後半から50年代にビ・バップが出てきて、50年代後半 からモダン・ジャズ、フリージャズって転換期が来て、そこから色々な他のジャンルとのコラボレーションが出てきて、ヨーロッパで60年代から improvisationってジャズにとらわれない分野が出てきて70年代につながるんだけれど、80年代から頭打ちになってこの20何年間で何が変 わってきたか、ってあんまり見えない。変える必要があるのかも俺にもわからないんだけれど。その流れの中で自分が何をどうしたいのか、ってやっていかない とね。

僕も写真を撮っているけれど、人の言うことに引きづられたり、引きづられまい、って思って疲れたりします。

人がとやかく言おうが、とにかくやりとおすことだよ。ミュージシャンが一旦ステージに立ったら、そのステージはその人に任されているわけだから。「今日は音が出せない」と思ったら止めればいいんだよ。でも実際止められない。多くのミュージシャンがそう。

俺らがやっているフリー・インプロビゼーションいうのは誰でもできるし、決まりはない。でも決まりはないけれど、やり方はある。大切なのはステージに立っ た時に、どこまで緊張できているか、どこまで関係ができているか、どこまで空間を把握できているか。そういうことなんだよね。その空間の中で「今ここへ行 かれたら困る」ってことがたくさんあるんだよ。でも不感症の人はそれを平気でやるんだよ。「なんでもいい」から。

やっぱり何でもいいってわけじゃないんだよね。ソロでもどういうカタチでやっても空間があるわけで、それをどう感じ取れるか。それを読み取れる人ならいい けれど、たいがいそれを感じられない。少なくともステージに立ってやるなら、他のステージに立っている人の何十倍も敏感でいなくちゃ。

音を出す必要はないんだよね。一杯叩きたくて叩いてるわけじゃなくて、減らしたいけれど、今は必要だから音を出しているんだけれど、ヘタクソだから音を減 らせない。自分の課題がやっぱあってさ、リズムってそれには意味があって、タンタカタンタカってリズムを繰り返して、それがリズムじゃないんだよ。不規則 な音の羅列のように聞こえても、それは大きな流れの中でのリズムなんだよ。それは呼吸であったり空気であったり、風であったり。

ずっと海外でツアーしていて、最近は海外ツアーにこだわらない理由はなんですか?

海外で、いろいろな人たちが聴く、いろいろな場所で、いろんな人と演りたかった。精一杯やってみてどこでやってもいっしょだって思えたんだよね。今は違う所に差し掛かってきていて、リズムも変わってきている。

ドラム自体も変われるはずなんだよね。今までにあるドラムで、いままで自分がやってきたこと自体も覆したいんだよね。人間っていうのは今まで培った音がど んどん出てくる。だから意識的に「培ったもの」を排除することを、いかに無意識におこなうかだよね。やっぱり意識的に出した音は死んじゃうからね。

脳味噌の中に3つ4つの違うテンションを作り出すっていうことができたらそれが可能だと思う。今やっている自分がそこにいて、もっとそれを変えられるはず だ、って思う自分も同時に存在して、更にそれをどう今演奏している自分から変えていけるか、って。でもその3つのテンションを「意識」している段階でもう ダメ。そういうんじゃないんだよ。今出してる音は過去の積み重ねから出てきてる音で、つまらないんだよ。そこから先に行きたいんだよ。でもいかんせん自分 の音は自分が「やってきた」音だからね。そこをどう変えられるかが俺の課題なんだよ。

すごい!っていわれたりするのもどうでもいいんだよ。俺は30年間やってんだよ、やれて当たり前なの。自分がビックリする音が出るかどうか、そこなんだ よ。全身全霊を賭けた、自分との戦いなんだよ。生きてる間にどこまでできるか。出だしはジャズで、19の終わりくらいからやりだして、でもジャズって言わ れても日本人はできないんだよ。アフロ・アメリカンの粘り腰な音は出ないんだよ。

気持ちのいい音とは?

いい音とか気持ちのいい音って人によって違うんだよね。音の出だしが重要なんだけれど、音の出だしのポイントが遅い音は「いまいち入ってこない」様に感じ る。でも音の出だしが早い音は、スッと前にいっちゃうから「感覚に残っていかない」様に感じる。本来、人間が持っている感覚や直感の中にこそ、信じられる 何かがあるのだと思う。俺は古い人間なのかもしれないけれど。新しい世代の人はそれを求めていないのかもしれない。

俺は人の求めるものをやろうと生きてるわけじゃない。自分がどこまで極められて、どこまで探れるかって生きているだけだから。それはいわゆる自我に固執し て自我の中に生きるってワケじゃない。生きて、魂があるってことはみんな同じで。生まれた瞬間はみんなおんなじで。俺たちがなんでここに存在して生きてい るのか。生きて死ぬんだろうか。ワザワザなんで死ぬために生きてるのか。俺は魂自体が発信して、つながろうとしたらつながれると思ってる。今はちょっとサ ボってるけれどね。(笑)人間ってラクな方を選ぶからね。また苦しい思いしたら思い直すかもしれないけれど。だから俺なんてロクでもないんだよ。たいした もんじゃない。

自分たちが何かできると思っちゃだめだよ。どれだけ自分が何もできないのかって思い知って、そっから何かが始まる。確かに人よりドラムは叩けるかもしれな いけれど、それだけの話だよ。俺の中ではできないことがたくさんあって。今日撮影で叩いたときもくやしさがたくさんあって。「なんでこんなリズムになって るんだろう」とか。こっちに行きたいのに(笑)。で、それを変えようとして、どうしようかなぁ、あれまた違うなって。

同時に3つの音を微妙に違うタイミングで出せたらいいんだよね。スネアとハイハットとバス・ドラのタイミングを、それぞれに3つ意識が確実にいって、全部 違うようにしたい。練習して「組み立てた」ものじゃなくて。一瞬のコントロールの中で同時に変えられるようになりたい。俺は可能だと思う。でもやっぱりひ とつの方に意識が行ってしまう。聴いてる人は誰もわからないと思うけれど。でもわかる人はいる。だからいつも適当に中途半端にできない。いつもそこに全集 中と最大限の緊張感を持ってる。

ビートをはずしたい。でもクラシックのようにはしたくない。インプロビゼーションのようにもしたくない。今日撮影の時に演奏したようにしたい。ドラムの概 念を変えたい。今までに誰もやったことが無いことがやりたい。今もかなり近いんだけれど、もっといけると思っている。死ぬまでにできるかわからないけれ ど。一生わからないだろうけれど、それに近いもの、これじゃないか、あれじゃないか、っていうのはある。

己の音はどこへ行くか、っていうのが俺にとってのジャズ。でもそれが果たしてジャズなのかどうかはわからない。言葉がそうなっているだけで。

重要なのは言葉ではない、「感じられる」か「実感できる」か。集中力と緊張と弛緩のうちに。

(米国の音楽雑誌に掲載されたインタヴューの日本語原文)

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